バターリッチ・フィアンセ
●婚約者VS執事
渡された鍵を手に、コンクリートの階段を上がっていく。
城戸さんの部屋は、三つ並んだ扉の一番奥、201号室。
今日から、私もここで……
自分の家に比べたら半分以下の大きさの扉の前で深呼吸し、鍵を開けて中に入る。
「お邪魔します……」
コツ、と玄関に一歩足を踏み入れて、まず驚愕。
「……何故、廊下にキッチンがあるの……?」
それも、極狭。コンロは二口しかない。
ブログに載せていたあの素敵な料理の数々は、まさかここで?
パンプスを脱いで部屋に上がると、二、三歩キッチン脇を歩いただけでたどり着いた居間らしき部屋。
テレビ、テーブル、パソコン机……どの家具もよく言えばコンパクト。悪く言えば小さい。
「そういえば、寝室は……?」
キョロキョロ辺りを見回すと、二つの扉を見つけた。
けれど、ひとつは海外のホテルで何度か経験したことのあるトイレとバスルームが一体になった部屋――こんなにもトイレとバスタブが接近している狭さは未経験だったけれど――。
もうひとつの扉はクローゼットで、やっぱり寝床が見つからない。
「あとで、彼に聞いてみよう……」
今日は私が来るからと早めにお店を閉め、今は下で後片付けと掃除をしている城戸さん。
『先に部屋で休んでて』
と言われたけれど、ソファもベッドもないこの部屋で、どうやって休めばいいのかしら……
居心地悪く、立ったままで私がため息をついたときだった。