バターリッチ・フィアンセ


結局、引きずられるように車に乗せられて、三条家に戻ることとなった私。

父は仕事で居ないし、姉たちも今日は主婦業やらデートやらで忙しいらしく、家には使用人しかいなかった。

どうしたのかと聞かれても、ちゃんと説明できる気もしないし、ちょうどよかった……


倒れ込むように横になった自室のベッドの上。

何も考えたくない……と、目を閉じたところへ、真澄くんがお茶を持ってやってきた。


ベッドサイドに置かれたサービスワゴンには、お茶だけでなくクロワッサンを思わせる形の小さな焼き菓子が乗っていた。

それを見たらいやでも昴さんを思い出してしまった私は、くるりと身体を反転させて壁の方へ寝返りを打つ。



「温かいものと冷たいもの、どちらがよろしいですか?」

「……どっちも今は要らないわ。ごめんなさい、悪いけど一人にして欲しいの」



親切で言ってくれている真澄くんには申し訳ないけど、昴さんを失った私の痛みもわかってほしい……

そう思いながら言った台詞だったけれど、真澄くんはまるでわざと私に聞かせるみたいに、大きなため息をついた。



「そんなに城戸さんがいいですか」

「……どうして、そんな言い方……」

「彼のことは早く忘れてください。でないと、僕も実力行使に出なければならないので」



実力、行使……?

物騒な言葉に反応して後ろを振り返ろうとしたら、その途中……
ちょうど仰向けになったところに、何故か真澄くんの身体が覆い被さってきた。

私の手首を拘束する彼の手に、白い手袋は嵌められていない。



「真澄くん……悪い冗談はやめて」

「冗談ではありません。城戸さんができないのなら、僕がやるまでです」

「……何の話をしているの……?」



真澄くんの考えも、行動も、私には全然読めない。

つかまれた手首が痛い。



「――僕も彼と同じ目的で、ずっとあなたのそばにいたと言うことです」



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