バターリッチ・フィアンセ
一瞬、頭が真っ白になった。同じ目的、って……?
「どういう、意味……?」
「……説明が必要ですか? 面倒なので省きたいのですが」
「そんな……ちゃんと説明して。それに、今すぐここからどいて」
「物分かりの悪いひとだ。そんな願いを聞き入れるわけがないでしょう。僕はあなたを傷つけるために、ここへ連れ帰って来たんですよ?」
身動きが取れないまま、耳元で囁くようにそう言われて、私の肌が粟立った。
これは本当に真澄くんなの……?
ずっと、私の側に居て、嬉しいことも楽しいことも、つらい悩み事も、そして昴さんとのことも優しく耳を傾けてくれていた、あの真澄くん……?
「信じられない、という顔をしてますね。そのうち嫌でも信じられます。
……まず手始めに、城戸さんの痕跡を身体から追い出しましょうか?」
「なに、する、気……」
「……以前、城戸さんを怒らせようとした時に、久しぶりにお嬢様の身体を見て……もちろん服の上からですが、驚きましたよ。
いつの間にそんなに女性らしくなったんですか?」
真澄くんの視線が、私の身体の隅々までを恥ずかしいくらいにしげしげと眺める。
直接触れられているわけでもないのに、見られた部分がちくちくと刺激を与えられているような気になり、私は下唇を噛んで、羞恥に耐えた。
「その顔で、城戸さんを誘っていたわけですか。……そそりますね。彼が本気になってしまったのもわからないでもない」
徐々に近づいてくる、真澄くんの整った顔立ち。
決して嫌いな相手ではないけれど、湧きあがってくるのは嫌悪感だけ。
だけど必死にじたばたともがいても、男の人に力で敵うはずなんてなくて。
「やっ―――!」
昴さん、助けて……っ!
ぎゅっと閉じた目の端に、涙が滲んだ時だった。