バターリッチ・フィアンセ
●お節介な姉たち


「織絵―! 帰ってるの? ちょっと顔を見せなさい!」



ドンドンと、荒々しく部屋のドアがノックされ、聞こえてきた声の主は……



「……琴絵様ですか。いいところで邪魔をしてくれますね」



苦々しく、けれどどこか楽しげに呟いた真澄くんは、掴んでいた私の手首を解放すると、ベッドから降りて扉の方へ近づく。


……よかった。お姉様が来てくれなかったら、どうなっていたことか。


それにしても、真澄くんのあの豹変ぶりは一体……

まだ少し痛みの残る手首をさすりながらベッドから上半身を起こすと、つかつかと私の元まで歩いてきた琴絵お姉様が、いつも強気な彼女に似合わぬしおらしい声で言う。



「……織絵、どうしたの? 使用人たちが、あなたの様子がおかしいって噂してる。
城戸さんとの婚約を控えていることは皆知っているから、彼と何かあったんじゃないかって心配したらしい使用人の一人が私に連絡して来たわ」

「……みんな、お節介ね。私はそっとしておいてほしいのに」

「まさか、本当なの……?」



姉の問いかけに、私はコクンと頷いた。

それを見た彼女は気の毒そうに眉根を寄せ、そして入り口の扉近くに佇む真澄くんにこう告げる。



「伊原。……ちょっと席を外しなさい」



真澄くんも琴絵お姉様には逆らえない。

彼は少し間を置いた後で小さく頭を下げ、部屋から出て行った。


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