バターリッチ・フィアンセ
ああ……少しずつ、思い出してきた。
そのチクチクと尖った植物の種はうちの庭にあるもので、自分も指を痛めたことがあったから、確か気付いたんだ。
猫の足にも、それが刺さって痛そうだって。
「……お姉様、猫のことはなんとなく思い出したけど。どうして今そんな話を?」
「わからない?」
……そう言われても。
あの猫は確かその日のうちに姿を消してしまったし、今は生きているのかどうかさえ……
「――城戸さんを、探しましょう」
「え……?」
今度はどうしてまた急に昴さんの話に?
混乱してただ首を傾げる私に、姉はしっかりとした口調で言う。
「陽一さんの話を聞いた時、少し驚いたわ。だって、私にサンドイッチ作りを教えてくれた時の城戸さんはとても親切だったし、そこに企みがあるようには感じられなかった。
それは、織絵が少しずつ彼に刺さった棘の先をまあるく変えている証拠だったんじゃないかしら」
「……棘を、丸く……」
「どうして彼がいなくなってしまったのかはわからないけれど、織絵に何も言わなかったところを見ると、彼も苦しんでるんじゃないかと思うわ。きっと、完全に癒えてなかった傷がまた痛みだしたのね。
……それをどうにかできるのは、きっと織絵だけよ」
「……お姉様……」
ひとりでは悲しみに打ちひしがれてただ泣くことしかできなかったのに、姉の言葉はストンと心に落ちて、一筋の光が差すような気がした。
私の昴さんへの思いは、一度突き放されたからって、諦められる気持ちなんかじゃないはず。
いなくなったのなら探せばいい……そしてもう一度、彼の本心と向き合いたい。