バターリッチ・フィアンセ


専門学校に入って、二年目の冬のこと。

当時から恋人同士だった美和と達郎を冷やかしつつ、クリスマスムードの高まる夜の街を三人でぶらついているとき、俺はポケットの中で振動する携帯に気付いた。


『……あれ? 珍しいな。今日、出勤のはずじゃ……』


仕事中であるはずの母から携帯に着信があって、俺は不思議に思いながら電話に出た。



『もしもし、どしたの?』

『――あ、昴? ごめんね、今日私調子悪くてお店休んだんだけど、今から帰って来れない?』



その声は本当に弱々しいもので、俺は今まで風邪を引いた姿すらあまり見せなかった母の体調不良に嫌な予感を抱いた。



『わかった、すぐ帰る』

『……デートの途中だったら帰って来なくてもいいわよ?』

『違うよ、いつものメンツ。そんな冗談言えるなら平気だな』

『ふふ。……でもね、お酒も飲んでないのに気持ちが悪くって、めまいがするのよね』

『……なんだろ。とにかくすぐ行くから大人しく寝てな』



どうせ美和と達郎のデートの邪魔をしていただけの俺は、二人に事情を説明してすぐに母と暮らすアパートへと戻った。


着いたのは三十分後くらいだっただろうか。

寝室の方で寝ているのだとばかり思っていた母は、玄関を入ってすぐに見える居間の方で、テレビを見て笑い声をあげていた。

……なんだ、元気そうじゃん。



『……ただいま。寝てなくていいの?』



声を掛けてぱっと振り向いた顔も、そんなに顔色の悪い印象は受けない。



『あ、おかえりー。なんかね、しばらく横になってたら治っちゃった』

『ふーん……まぁ久々に休めてよかったじゃん』

『ね、ズル休みみたいになっちゃった。……そうそう昴、さっきテレビでやってたんだけどね?』



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