バターリッチ・フィアンセ
ICU――母はそこにいるのだと、病院に向かう途中の車内で担任に聞かされた。
そんな場所には入ったこともないが、重篤な患者の入る場所だという知識くらいはある。
昨日……普通に笑ってただろ。
手ぇつないで、甘えてきてたじゃんか。
どうして急にそんなことになってるんだよ……
到着するまでの時間がもどかしくて、少しの信号待ちにすら苛ついた。
昨日みたいに、俺が着いたら意外と元気で、けろっと笑ってればいいのにな。
そう思っても、今回はそれじゃ済まないだろうというのもなんとなく察していた。
担任の口から聞いていた病名は、それが命にかかわるものだと素人でも知っている、脳卒中の一種だったから……
『――城戸さんの息子さんですか? お母様はこちらです』
夜間でも慌ただしい総合病院の救急センター。
そこに着くとすぐに看護師に誘導され、ICUの前まで来た。
ガラス張りの扉の向こうには、ベッドが四床。
そのすべてが埋まっていて、一番端に、意識のない母の姿を見つけた。
『今、母はどういう状態で――――』
俺が隣に居る看護師に尋ねた瞬間、ガラス扉が勢いよく開いて、二人の男がICUから出てきた。
服装から言って、一人は医者、一人は患者の家族のようだった。