バターリッチ・フィアンセ
「……城戸さん、せめて服は受け取らせて下さい。でなければ今夜着るものがなくなってしまうし」
どうして彼が刺々しいオーラを纏っているのかわからないけれど、私はなんとかこの場をなだめたくて城戸さんにそう言った。
……今夜着るものがないというのは本当のことだし。
「昴」
「え?」
どういう意味かわからず首を傾げると、さっきお店で迫られたときみたいに妖しげな笑みを浮かべた彼が、私の耳元に唇を寄せささやいた。
「昴って呼べって言ってんの。それと、着るものなんてなくていい。俺が服の代わりんなって、ハダカの織絵を熱くしてやるから」
「なっ――――!?」
何を言うのこの人は!?
あまりの羞恥に顔面が爆発しそうになっていた私は、後ろからぐい、と誰かに引っ張られた。
強引だけれど決して痛くはないその優しい手は、真澄くんのもの。
気が付けば私は城戸さんから離されて、真澄くんの広い背中に隠されていた。
「……城戸さん。いくら婚約者とはいえ、織絵お嬢様を辱めるような発言をしないでいただきたい。
今あなたが言ったようなことを実行する気なら、僕はお嬢様を三条家に連れて帰ります」
穏やかな真澄くんには珍しい、毅然とした声と態度。やっぱり真澄くんは頼りになる。
脈打つ心臓をなだめるのに必死になりながら、私はそんな思いで彼の背中を見つめていた。