バターリッチ・フィアンセ
「――――っ……」
読んでいる途中で不覚にも目頭が熱くなり、俺はすべてのコメントを読む前にスマホを裏返して床に投げ出した。
まだ、たった一週間なのに、こんなに……
こんなに俺のパンを待っている人がいるなんて……
「だけど……今さら、帰れねーよ……」
探偵みたいな怪しい奴を雇い、山梨まで俺を捜しに行ったくらいだ。
店に帰ればきっとすぐ織絵に見つかる。
そしてもう一度あのまっすぐな瞳に見つめられたら、俺はきっと彼女を抱き締めてしまって、二度と離せなくなる……
このままブログの更新もせず、コメントも無視していれば、みんないつかは諦める。
それまでただじっと、俺は客たちが失望するのを待つしかないんだ。
そう自分に言い聞かせても、もやもやとした思いは消えることがなく……
織絵からも自分の仕事からも、逃れるためにここへ来たはずなのに、そのどちらも俺の中に居座り続け、俺を悩ませるのだった。
――そしてまた不毛な数日が経ち。
本来なら婚約パーティーが行われるはずだった日の朝早くに、家のチャイムが鳴った。
この場所を知っているのは美和と達郎だけ。
心配性な二人が予告通り訪れたのだと思った俺は、扉の覗き窓を確認することもせず、無防備な状態で扉を開けた。