バターリッチ・フィアンセ
●忠誠のキス
昴さんのことを簡単には諦めない、と決めたものの――。
あらゆる人脈を駆使しても全くいい知らせが入って来ないまま、そろそろ一週間が経ってしまおうとしていた。
落ち込み気味の私は自分の部屋のベッドに横になり、窓際で電話をする姉の後姿を見つめる。
「ええ……そうですか。わかりました。ありがとう」
耳に当てていたスマホを放した琴絵お姉様が、こちらを振り向いた。
その言いにくそうな表情でわかってしまう。……今日も、昴さんが見つからなかったって。
「……織絵の言っていたペンションにもいなかったそうよ」
「そう……」
「他に思い当たる場所はない?」
「……ない、わ」
言いながら、目尻に涙が浮かんでくる。
私は昴さんのことをほとんど知らないんだと、改めて思い知らされたような気がして、情けなくて――――
「織絵……」
姉が優しく、私の髪を撫でる。
そのぬくもりにますます涙腺を刺激されて私がしゃくりあげていると、ふいに部屋の扉がノックされた。
「はい」
私の代わりに返事をした姉が扉を開くと、そこに立っていたのは真澄くん。
あの日以来乱暴をされるようなことはなかったけれど、私は彼が怖くて、最近は身の回りの世話を他のメイドに任せていたから、彼と顔を合わせるのは久しぶりだ。
一体何の用だろう……
近くに姉が居てくれてもじわじわと迫ってくる恐怖感に、私は自分の腕をきゅっと抱き締めた。