バターリッチ・フィアンセ
「ま、真澄くん……?」
たとえ場所が手の甲だって、キスはキスだ。
本来の優しい彼に戻ったはずなのに、突然触れた柔らかい唇の感触に驚き、ドキンと胸が跳ねる。
「……僕はもう、自分の想いを成就させることを、諦めます。
その代わり、織絵お嬢様には幸せになって欲しい。あなたの心が一番に思い描く人と、一生添い遂げて欲しい。
だから……僕も協力します。城戸さんの居場所を探すこと」
「真澄、くん……」
――ありがとう。今のあなたは本物の騎士みたい。
私の気持ちをわかってくれて。
幸せを願ってくれて。
このところ沈みかけていた心が、また元気を取り戻していく気がする……
「……早速ですがお嬢様。彼と彼の母親が暮らしていた家などは、もう調べましたか?」
「……え?」
急に業務的な口調になった真澄君にそんなことを聞かれて、私はどうだったかしらと必死で頭を回転させる。
彼と彼のお母様が暮らしていた家……
そんな候補は考えもしなかったような……
「もちろん彼の母親は亡くなっていますから、そこを調べたところでもう別の誰かが住んでいたり、あるいは家自体がなくなっているかもしれません……
でも、彼の中で織絵様に次いで心の大部分を占めているのはやはり母親のことではないかと僕は思うんです」
――そう、言われてみれば。
調べてみる価値はありそう……善は急げよ。
真澄くんの言葉に強い説得力を覚えてベッドから腰を上げると、「お嬢様、お待ちください」
と引き留められ、私は振り返った。
「――僕に、考えがあります」