バターリッチ・フィアンセ
「……だぁーっ! 変なとこ触んなよ、エロ執事!」
「失礼な方ですね。寸法を測っているだけです」
「別に適当に合うサイズなら何でもいいって。こういうときの主役は女の方だろ? 誰も俺のことなんて見てねーよ」
「いいえ。織絵お嬢様の隣に並ぶのですから、それなりの格好を……あ、動かないで下さい! ちょっと、城戸さん!」
私の方の支度は早々に整ってしまったから、昴さんの様子を見に客間の方へ足を運んでみたけど……
扉の向こうから聞こえてくるのは、相変わらずの言い合いと激しい物音。そして……
「……もう逃がしませんよ?」
に、逃がさないって何……?
まさか真澄くん、また自分を見失ってしまったの……?
殿方の着替えを覗くのはどうかとも思ったけれど、ちょっと心配過ぎる。
「二人とも、一体何をそんなに騒いで――――!」
勢いよく扉を開け放った私が目にしたのは、ベッドに押し倒された上半身裸の昴さんと、その上に馬乗りになる真澄くん。
ええと……これは、一体どういう状況……?
「織絵ー、助けて。襲われてるんだ、俺」
昴さんが私の方を見て頼りない声を出す。
これってやっぱり、見たままのそういうことなの?
知らなかった。真澄くんに実はそういう趣味があったなんて……
「お嬢様? まさかとは思いますが城戸さんの言うことを真に受けたりしてませんよね?」
「……真澄くん。私、愛の形についてはとやかく言う気はないけど……この人は私の大切な人だから、その……諦めて欲しいというかなんというか」
「お嬢様っ!」
慌てふためく真澄くんを見て、昴さんがお腹を抱えて笑っていた。
それでやっと彼の冗談だと気が付いた私は、ほっと胸を撫で下ろす。
ああびっくりした……真澄くんがライバルって、ちょっと手強いかもなんて思っちゃったじゃない。
昴さんたら、きっとさっき言ってた“仕返し”のつもりね?
全く仕方のない人……でも、そんな所も好きだと思ってしまう私も、相当重症かも。