バターリッチ・フィアンセ
夕暮れと夜が混じり合った、濃い紫色が広がる空を窓の外に見ながら、私と昴さんはパーティー会場のあるホテルに向かって車に揺られていた。
隣に座る彼は、明るいシルバーのタキシード姿。
中のタイとベストは落ち着いたブラックで、いつもよりきちんとセットされた髪がキレイに跳ねていて。
もう、とにかく、カッコいいのなんのって……
「……あのさ、織絵」
「は、はい!」
いけないいけない、私ったら昴さんに見惚れてぼうっとしてた。
我に返って彼の瞳を見つめ返すと、とてもまじめな表情の昴さんが言う。
「着いたら、少し親父さんと話す時間あるかな」
「お父様と? そうですね。たぶん、少しくらいは」
「……俺さ、あの店、ちゃんと買おうと思って」
お店を、買う……。そういえば、noixはもともと父の持ち物であるのを、昴さんに無償で貸していたんだっけ。
それを“買う”っていうことは、きっと昴さんの中で、色々とケジメをつけたいんだろう。
「一度で払える額じゃなければ、少しずつでも払って、ちゃんと自分の店にしたいんだ。織絵には苦労させることになるけど……俺の気持ち、わかって欲しい」
「ええ。もちろん、私もお手伝いします」
昴さんとなら、幸せも苦労も、いつも分け合って生きて行きたいもの。
「……サンキュ」
そんな話をしていると、私たちを乗せた車はいつの間にか目的地まで到着していた。
天まで届きそうなホテルの建物の、一番大きな宴会場を貸し切って行われる今日のパーティー。
そこに何人くらいのお客様が来るのか私は知らされていない。
今さら緊張してきた私とは裏腹に、昴さんは飄々とした様子でホテル内を進んでいく。