バターリッチ・フィアンセ
「本当は二人の好みを聞いてからとも思ったが、なにせ時間がなかったから、琴絵たちの意見を参考に勝手に用意してしまった。
これがないとパーティーが締まらないからな」
父の言葉を聞いても未だピンとこない私に、珠絵お姉様がこっそり耳打ちする。
「あれ、かなり大きいダイヤよ。お父様ったら、織絵のために奮発したみたい」
――ダイヤ。
そうか、婚約には指輪がつきもの……
だけど、私や昴さんにそこまで考える余裕がなかったから、代わりに準備してくれたのね。
「……ありがとうございます。でも、実は俺……」
昴さんはそう言いかけて、壁に掛けられた時計に目をやる。
パーティーが始まるまでにはまだ少し時間があるのに、その表情にどこか焦りが滲んでいるのはどうして?
――そのとき、突然勢いよく開いた控室の扉。
荒々しい開け方に驚いた皆がそちらに注目すると、肩で息をしながら立っていたのは、真澄くんだった。
「真澄くん……そんなに慌ててどうしたの?」
そういえば家を出るとき、彼はどうして私や昴さんと同じ車に乗らないのかと不思議だった。
今まで一体どこにいたんだろう?
けれど真澄くんは私の質問には答えず、つかつかと昴さんの元へ近づいて吐き捨てるように言う。
「全く、人使いの荒い……」
「……悪いと思ってるよ。で? 俺の言ってた場所にちゃんとあった?」
「ありましたよ。少し輝きが鈍っていたので、ここへ来る途中に急いでクリーニングも済ませてきました」
「さすが、気が利くねー」
「あなたに褒められても全く嬉しくありません」