バターリッチ・フィアンセ
真澄くんが不機嫌そうに昴さんに手渡したのは、父が準備してくれたのとちょうど同じくらいの大きさの箱。
けれど年季が入っていて、少し色褪せているように見える。
「織絵」
呼ばれるままに昴さんの元へ近づくと、彼がその箱から出したのは、小さな宝石のついた銀のリング。
「……これは?」
「俺の父親が、昔母親に贈ったもの……らしい。結局結婚には至らなかったけど、母親はこれをすごく大事にしててさ。もうとっくに別れてんのに、何度もこれを指にはめては俺に自慢してたんだ。
“私の宝物なの”――って。」
つまり……これは昴さんのお母様の大切な形見ってことよね。
それを、どうして今……?
「きっと、お義父さんが用意してくれたのはすごくいい指輪なんだと思う。でも、俺が織絵に贈ることのできるレベルのもんじゃないと思うんだ。……分不相応ってやつ。
だからってわけじゃないけど、織絵にはこれを贈ろうと思ったんだ。母さんが大切にしてた指輪――織絵なら、それにもう一度価値を与えてくれる気がして……」
「昴さん……」
そんな大切な物、私がもらってしまっていいの?
天国の彼のお母様が、怒ったりしないかしら?
こんな小娘に大事な宝物をやってしまうなんて……って。
不安げな表情をする私を見て、昴さんが苦笑しながら尋ねる。
「あー……やっぱ新品が良かった?」
「ち、違います! そうじゃなくて、その指輪は昴さんのお母様にとってきっと大切な思い出の詰まったものなのに、私なんかが頂いていいのかなって……」
「いいんだよ。あの人は、俺の選んだ相手ならきっと文句は言わない。むしろ、もらってくれたら喜ぶと思うんだ。年甲斐もなくはしゃいだりして」
生前のお母様を思い出しているのか、そう話す昴さんの表情はとても優しかった。
……彼がそう言うなら、信じることにしよう。
彼のお母様が、私たちをきっと祝福してくれていると。