バターリッチ・フィアンセ
家族に見守られながら、しみじみと幸せに浸っていると、とうとうパーティーの時間がきてしまった。
昴さんと父は、noixの今後について少し言葉を交わしたようだったけれど、聞こえてきた台詞の中には少し心配なものがあった。
『実は、あそこを借りたいと言う人が居てね――――』
まさか、お父様はnoixをその人に貸す気じゃないわよね……?
もっと深く話を聞きたかったけれど、二人の話はそれ以上聞こえず、やがてホテルの従業員が私たちを呼びに来てしまった。
父と姉たちは先に会場へ。
主役の私たちは少し遅れての入場になるらしく、宴会場の大きな扉の外でふたり並んで待たされている間に、私は昴さんに尋ねてみた。
「……お店のこと。父との話はついたんですか?」
「ん? ああ……あとは俺次第、って感じかな」
「やっぱり、あの場所は他の人に取られてしまうんですか……?」
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。織絵はいつも隣で笑ってて。……そしたら俺も覚悟ができるから」
覚悟……? その意味を聞き返そうとしたけれど、その前にタイムリミットが来てしまった。
扉が開かれると、聞こえてくるのは大きな拍手の渦。
「なんつーか……今さらだけど、俺ってすごいお嬢様を嫁にもらおうとしてるんだな」
会場の雰囲気に圧倒されつつ、昴さんは楽しそうだ。
「後悔してますか?」
「……まさか。織絵に出逢えたこと、運命の神様に感謝してる」
昴さん……。
またしても、じんわりと胸をあたたかくする言葉をもらって、私の視界が滲む。
「ほら、行くぞ」
「はい……!」
愛しい人に手を取られ、私は顔を上げるとゆっくり大勢のお客さんの前へと足を進めて行った。