バターリッチ・フィアンセ
○秘密基地と激安店
「とりあえず俺、シャワー浴びるからさ――」
「きゃぁぁぁっ」
狭い廊下の真ん中に、私の悲鳴がこだました。
だって、いきなり目の前で城戸さんが服を脱ぎ出すから――!!
「……うるさい、織絵。近所迷惑」
上半身裸の彼が私に近づき、大きな手で私の顎から頬にかけてをむにっと掴む。
やめてー! あなたの裸体は彫刻のように美しい、それは認めるけれど、彫刻ではなく生身の人間!
そんなに近づかれたら目のやり場がなくて……
「はは、真っ赤。あの執事とはそーゆー関係ではなかったんだな」
「あ、当たり前ですっ!」
掴まれていた顎を解放されると、ふいっと彼から目を背けて熱くなった頬に手のひらを当てる。
ああもう、この人心臓に悪いわ……
「しっかし。織絵をどこで寝かすかなぁ……」
……あ、それは私も抱いていた疑問。
思わずくるっと振り返り、でも城戸さんが裸であるのを思い出し慌ててまた目をそらす。
「あの、そもそも城戸さんはいつもどこで寝られてるんですか……?」
不自然に後ろを向いたまま、私はそう尋ねた。
「昴だっつーの」
「……い、いきなりは無理です!」
「呼ばないなら一緒にシャワー――」
「すばるさんっ!」
叫ぶように言うと、背後からクスクス笑う声が聞こえた。
ダメだ、完全に彼のペースに呑まれてるわ。
普通に会話がしたいのに、これじゃ全然……