バターリッチ・フィアンセ
そのおかげで、私はかなり昴さんに溺愛されているように皆の目に映ったらしい。
挨拶にまわる度に冷やかされ、恥ずかしくて仕方がなかったけれど、同時に幸せでもあった。
大切な指輪ももらってしまったし、新作パンにまでそんな特別な意味が込められているなんて、私は昴さんに素敵なプレゼントを贈られてばかり。
私からも、何か贈りたいけれど……
昴さんは、どんなものを贈れば喜んでくれるだろう。
「――欲しいもの?」
考えても答えの出なかった問いは、本人にぶつけるほかにいい方法がわからなかった。
パーティーを終え、父が予約しておいてくれた高層階のスイートルームに向かうエレベーターの中で、タイを外した昴さんが私を見る。
「ええ。今日は私、素敵な物をもらってばかりだから……そのお返しがしたくて」
「そんなのいいよ。俺は織絵が隣に居てくれればそれで」
「でも……」
いつも思うことだけど、昴さんってあまり欲がない。
そんな簡単な願いでは、私の気が済まないわ……
口を尖らせてうつむく私に、昴さんが小さくため息をついて言う。
「……じゃあ、お願いしようかな」
「はいっ! 何をでしょう!」
パッと顔を上げて私が微笑むと、彼の両手が私をエレベーターの壁に押しつけるように耳の脇に置かれて、それから近づいてきた唇が、吐息たっぷりにささやく。
「――今夜、最高級のバターになってみせてよ」