バターリッチ・フィアンセ
――結局、その晩私は彼の思惑通り。
最高級かどうかはわからないけれど、バターのようにとろとろに溶かされてしまったのは言うまでもなくて。
今までのように昴さんの気持ちを探りながら抱かれるのとは違って、大きな愛を感じながらの行為は私を頭のてっぺんから爪先まで幸福で満たしていく気がした。
朝になって、先に目覚めた私は、隣で眠る彼の寝顔と、薬指にはめられた指輪を交互に眺めては、“夢じゃないんだ”――という実感を噛みしめ、胸をときめかせていた。
カーテンの隙間から差し込む朝陽に照らされた指輪は、昨日よりもキラキラ輝いていて見えたし、昴さんの寝顔は、子供みたいに無防備で可愛い。
彼を起こさないようにふふっと小さく笑って、抱き合ってそのまま眠ってしまったためにシャワーを浴びようかと立ち上がると、寝ているはずの昴さんの腕は私の身体を離してはくれなかった。
「昴さん……?」
「……どこ行くの」
まだ眠たそうな声で、目を閉じたままそう聞いてきた彼。
「シャワー、浴びようかなって」
「……まだいいじゃん。つーか、一人にしないで」
「昴さん……」
いつもどちらかというと強気で、私よりも優位に立って見える彼だけど……本当はこんなに寂しがり屋の一面も持っていたんだ。
それも当然と言えば当然なのかもしれない。
私には、お母様をなくしたあとも父や姉や、それから真澄くんがいてくれたけど……昴さんはずっと一人で、パン職人になるためだけに、必死で頑張って来たんだものね。
「……もっと、甘えてもいいですよ?」
「んー? ……じゃ、遠慮なく」
「え? あ、そういう意味じゃな――――」
布団の中にもぐりこんだ彼が、私の胸に顔を埋めれば、再び訪れる甘い時間。
私たちはそのまま日が高く昇るまで、抱き合って笑い合って、愛を深め合った。