バターリッチ・フィアンセ
●引き継がれる愛情


街が色とりどりに飾られて、道行く人が浮き足立っているように見える12月のある日のこと。

窓にスノウスプレーで描かれたサンタや星の向こうから知った顔がふたつ覗いているのを見て、私は店の扉へ駆け寄って彼らを中に招き入れた。



「――いらっしゃいませ、達郎さん、美和さん」

「織絵さん、久しぶり」



――二人に会うのは夏以来。

相変わらず仲睦まじい二人だけど、変わったことがひとつだけある。

それは、美和さんの少しだけふっくらとしたお腹。



「体調は落ち着いたんですか?」

「ええ。もうつわりも治まったし、ペンションが本格的に忙しくなる前に昴のクグロフ食べておこうと思って」

「じゃあ今の時間に来てちょうどよかったです。夕方にはもう売り切れちゃんです、昴さんのクグロフ」



私は、二人を小さなイートインスペースへと案内しながら、そう説明した。

クグロフは、クリスマス用の可愛い形をしたお菓子。

昴さんが作るそれがとても美味しいと口コミで評判となり、毎日早い時間に完売を迎えてしまう人気商品だ。


「みーちゃん、せっかくだからただ食べるだけじゃなくて企業秘密を探らせてもらおう」


席に着いて、ドリンクメニューを覗いた達郎さんが美和さんに言う。



「たっちゃんの舌にそれが分かるの?」

「あ……それひどい。俺のパンだってそれなりに人気あるのに」

「それでも、昴には敵わないよ。大きなお店になってもこんなに混雑してて、雑誌にも紹介されたりしてるんでしょ?」



美和さんの言葉に、私はちょっと誇らしくなりながら頷く。

あれから新装開店したnoixは、今や街の小さなパン屋さんの域を出て、この辺りで知らない人はいない超人気店となっているのだ。


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