バターリッチ・フィアンセ
「――織絵さん、式の予定は?」
ノンカフェインのハーブティーをこくりと飲んだ美和さんが、私に聞く。
「まだなんです。昴さんが、父からの援助は一切受けずに、自分たちのやれる範囲で式を挙げたいって言ってるので、お金が貯まるまではおあずけで。
お店の売り上げは悪くないんですけど、それでもまだ式を挙げられるまでにはならなくて……」
「馬鹿だなー、昴。甘えられるとこは甘えればいいのに」
達郎さんの言葉には、私も少しだけ共感してしまうけれど……
でも、昴さんはきっと、今までの人生をほとんど誰にも甘えずに生きて来たんだと思う。
彼のそういう面はとても立派だと思うし、尊敬もしている。
だけど、早く式を挙げたいな……と、たまには思ってしまうのが正直なところでもある。
一番足を引っ張っているのは、このお店と、それから以前のnoixと同じく上階にある住居スペースのローンの支払い。
本当は“婚約祝いに”と父はこのお店をプレゼントしてくれるつもりだったらしいけど、昴さんがそれでは自分の気が済まないと頑なに断って、きちんと購入する手続きを踏んで今に至る。
お店の経理はもちろんしっかりやっているけど、それだけじゃなくて、私は生まれて初めて“家計簿”なるものをつけ始め、毎晩のように電卓を叩くのが習慣になりつつある。
これが意外と楽しいもので、最近は“いかに食費を抑えるか”という命題に、私は情熱を傾けていて、新聞の折り込みチラシだって毎日チェックしている。
もしも真澄くんが今の私を見たら嘆きそうだな、なんて思うと、ちょっと笑ってしまう。