バターリッチ・フィアンセ

「あー、やっぱりすんごく美味しい、このクグロフ」

「食べごたえあるんだけど重すぎないって言うか…うーん、やっぱわかんねぇな、企業秘密」

「ふふ、ありがとうございます。あとで昴さんのことも呼んできますから、ゆっくりしていってくださいね」


そう言って二人のテーブルを離れた私は、お店全体を見渡して、しみじみと思う。

やっぱり、昴さんのつくるものは、人を笑顔にする力がある。


たとえまだ式を挙げていなくたって、自分のパートナーがそんな素敵な職業の人で、彼が誇りを持って取り組む仕事をすぐ近くでお手伝いすることができることは、とても幸せなこと。

そのうえ、仕事が終われば同じ家に帰って、すでに新婚生活みたいなことをしているんだから、これ以上のことを望むのは、欲張りなのかもしれない。


一日一日を大切に過ごすことが、きっと結婚への近道。

そう思い直して、私はその日も仕事に精を出すことにした――――

はず、だったのだけど。


窓の外が暗くなり、閉店時間が近づいてきた頃、私は突然身体のだるさを感じて店内でしゃがみこんでしまった。

いち早くそれに気づいたのは同じ店内にいたアルバイトくんで、すぐに厨房へ下がって昴さんを呼びに行ってくれた。


なんだろう……体が熱いし、風邪でも引いたのかな。

お店、休みたくないのに、どうしよう……


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