バターリッチ・フィアンセ


とりあえず、昴さんの指示通り。

後片付けや閉店のことはお店に残っている皆に任せて、私は先に家に戻って大人しくベッドに横になっていた。


新居は前に住んでいた部屋よりもずっと広くて快適だけれど、ロフトがないのは少し寂しい。

一度昴さんにそれを話したら、『織絵って狭いとこでする方が好きなの?』とからかわれたっけ……

体調が悪くても、考えるのはやっぱり彼のことばかり。

昴さん、早く帰って来ないかな……



――私はそのまましばらく眠ってしまっていたらしい。

目を覚まして物音のする方へ行くと。キッチンで何か料理を作る昴さんの姿があった。


「あれ? 起きて平気なの?」

「はい……眠ったら少し楽になりました。ごめんなさい、心配かけて」

「いや、それはいいんだけどさ。熱はありそう? 解熱剤とか、オデコに貼るやつとか買ってきたけど」


彼が指差したダイニングテーブルの上には、ドラッグストアのビニール袋が乗っていた。

仕事で疲れているのに、私のために色々買い込んできてくれたんだ……


「ありがとうございます。たぶん、解熱剤を使うほどではないので、おでこだけ冷やそうかな……」


ガサッと袋を覗いてみると、他にもゼリーだとか栄養ドリンクだとか、彼の気遣いがわかるものがたくさん入っていて、思わず表情が緩む。

私って、大切にされてるな…… そんな実感で胸が満たされて、体の調子も悪いせいか、涙ぐんでしまいそうになる。

そんな中、袋の底の方に見慣れない箱があることに気が付いて、なんだろうと思った私は彼に尋ねてみる。



「……ねえ、この箱、なんですか? 体温計……?」

「あー、それ? 念のために買ってみた。……実は気になってたんだよね、最近」

「気になってたって……何がですか?」



コンロでお粥か何かをあたためていた彼が、火を消して私の方へ近づいてくる。

そして袋の中から正体不明の箱を取り出すと、私の手の中にぽんと置いた。



「――織絵さ。最近、生理来てなくない?」




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