バターリッチ・フィアンセ
*
「……どうしてわかったんですか?」
「え? だって、最近全然断られないから逆に不思議で。そりゃ俺にとっては嬉しいけど、織絵の体が心配でずっと気になってたんだ」
リビングのソファに並んで座る私たち。
目の前のローテーブルの上には、くっきりと陽性反応の出た妊娠検査薬。
「明日、休んで病院行ってきなよ」
「でも、お店が……」
明日は定休日でも何でもない。
従業員が増えたと言ってもギリギリの人員だから、一人欠けるだけでも痛いこと。
その不安を素直に口にすると、彼の長い人差し指にオデコをつつかれた。
「……あのな。この世に人の命より大切な物なんてない。しかも、織絵は今二人分抱えてんの。ちゃんと育ってんのか店休んで見てくること。これ、店長命令」
「はい……わかりました」
私の中に、もうひとつの小さな命……
全然そんな気がしないけど、不思議とお腹に触れたくなる。
はじめて妊娠がわかったとき、どんな気持ちだったか、昼間美和さんに聞いておくんだったな。
「――で。ちゃんと妊娠してるってわかったらさ」
昴さんは急に改まった口調になり、私の髪を撫でながら言った。
「お腹目立たないうちに、やるか。結婚式」
「え――――?」
だって……そんなお金はまだ貯まっていないはずよね?
子供ができたからって、そんな無理をして大丈夫なの……?