バターリッチ・フィアンセ




「……どうしてわかったんですか?」

「え? だって、最近全然断られないから逆に不思議で。そりゃ俺にとっては嬉しいけど、織絵の体が心配でずっと気になってたんだ」


リビングのソファに並んで座る私たち。

目の前のローテーブルの上には、くっきりと陽性反応の出た妊娠検査薬。


「明日、休んで病院行ってきなよ」

「でも、お店が……」


明日は定休日でも何でもない。

従業員が増えたと言ってもギリギリの人員だから、一人欠けるだけでも痛いこと。

その不安を素直に口にすると、彼の長い人差し指にオデコをつつかれた。


「……あのな。この世に人の命より大切な物なんてない。しかも、織絵は今二人分抱えてんの。ちゃんと育ってんのか店休んで見てくること。これ、店長命令」

「はい……わかりました」


私の中に、もうひとつの小さな命……

全然そんな気がしないけど、不思議とお腹に触れたくなる。

はじめて妊娠がわかったとき、どんな気持ちだったか、昼間美和さんに聞いておくんだったな。



「――で。ちゃんと妊娠してるってわかったらさ」



昴さんは急に改まった口調になり、私の髪を撫でながら言った。



「お腹目立たないうちに、やるか。結婚式」

「え――――?」



だって……そんなお金はまだ貯まっていないはずよね?

子供ができたからって、そんな無理をして大丈夫なの……?



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