バターリッチ・フィアンセ
頼りない顔をする私に、昴さんはばつが悪そうに頬を掻きながら言う。
「……ゴメン。今まで店が忙しくて考えるの後回しにしてたけど、それなりの式が挙げられるくらいの金はあるんだ、学生時代からコツコツで貯めてたやつが。
だけど、なかなかきっかけがなくて言い出せなかったっつーか」
昴さんはとても申し訳なさそうだったけれど、きっかけがないというのはわかる気がする。
私たち、朝から晩まで働き通しで、お休みの日はゆっくり眠ることが最優先で。
私だって“式を挙げたい”という思いはあったけれど、それは漠然としたものに過ぎず、具体的にブライダルサロンに行こうとか、そういう気にはなっていなかったもの。
「きっかけを与えてくれた、この子に感謝ですね」
私は自分のお腹に手を当てて、昴さんにそう話す。
「うん。さっさと夫婦になれって言ってんのかもな」
「昴さん……嬉しいですか?」
「当たり前だろ。……でも、ほんと、大事にしろよな、体」
お腹の上に置いた私の手に、昴さんの大きな手が重なる。
二人ぶんのぬくもりの下では、私たちの愛の結晶が、小さく芽を出したところ。
「織絵の体調がよければ、今度の休みには、報告ついでに墓参りでも行こう。二人のばーちゃんに会いに」
「そうですね。きっと二人とも喜んでくれます」
――それに、私たちを産んでくれたことへの感謝も伝えたい。
今、ここに新しい命がいるのは、あなたたちのおかげですって。
母たちにしてみたら、私たちが親になるなんて、ちょっと心配かもしれないけれど……
注いでくれた愛情はちゃんと引き継いで、この子にもたっぷり捧げるから。
どうか、天国から見守っていてねって――――。