バターリッチ・フィアンセ
「……上がってみても?」
「どーぞ、暑いけど」
階段は傾斜が急で、梯子みたいに手を使わなければ登れない。
そんなところも“秘密基地”らしさを醸し出していて、私はワクワクしながら初めてロフトという空間に入った。
そこはやはり狭くて、昴さんの言う通り熱気がこもっていたけれど。
「私……ここで寝てみたい」
一組敷いてある布団をもう少し壁に寄せれば、私の分の布団だって敷けるだろう。
それで、枕元にはお気に入りの本を何冊か置いて、小さなランプを付けて……
そんな夢を勝手に膨らませていると、階段下から昴さんの声がした。
「――織絵、俺シャワー浴びてくる。そこは開けっぱなしにしといていいから、買い物行く準備しといて」
「買い物?」
ロフトの入り口から下の部屋を覗くと、こちらを見上げた昴さんが言った。
「服とか色々要るものがあるだろ、執事の荷物受け取らなかったんだから。織絵が裸でいーなら買いに行かないけど」
「い、行きます……!」
「じゃあ待ってて。10分で出てくる」
バスルーム兼トイレの扉が閉まり、シャワーの水音が聞こえ始めると、私はほっと息をついた。
ようやく会話が成り立つようになってきた……かしら?
私をからかうような発言は大体が冗談みたいだし、徐々に免疫をつけていかなきゃね……