バターリッチ・フィアンセ

夏の夕暮れはまだまだ暑い。

それなのに、生乾きの髪からシャンプーのいい香りを漂わせる彼がそのまま目的地に向かい歩き出そうとしていて、私は思わず呼び止めてしまった。


「――あの、歩いて行くんですか?」

「え? だって近いし」


何でもないことのように笑う彼の顔には、オレンジ色の西日が差す。

ほら、それがもう紫外線……!


「帽子も日傘もありません!」

「いいだろ別に。万が一シミができても俺が嫁にもらってやるんだから」

「そういう問題じゃ……!」

「ほら、早く行くぞ」


もう! シミができたら本当に恨みますからね!

彼へのささやかな反抗心から、私は夕日で長く伸びる彼の影を踏んづける。



連れてこられたのは、三階建ての大きな洋服のショップ。

店内には、主に10代くらいの若者、そして主婦の姿が目立つ。

私は一度も利用したことはないけれど、ブランド名は耳にしたことがあった。

私の記憶が正しければ、ファストファッションとかいう部類の服を扱うブランド。


「ここで、私の服を?」

「うん。どーせ毎日汗と粉まみれになるんだから、充分でしょ?」

「充分……どころか」


売り場をキョロキョロ見渡しながら思う。

……結構、好きなデザインが多い。

カラフルで華やかな印象の服もあれば、モノトーンのスタイリッシュな服もある。

店内の至る所にバッグや靴、アクセサリーも並んでいて、種類も豊富だし。


「ゆっくり見てもいいですか? このお店初めて来ましたけど、すごく気に入っちゃいました」

「ん、わかった。じゃあ俺は二階のメンズのとこにいるから、終わったら声掛けて」


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