バターリッチ・フィアンセ
昴さんと別れたあと、私はたまたま手にとった服の値札を見て驚愕した。
「……三桁。って、何かの間違いじゃないのかしら……」
思わず側にいた店員に声を掛け、印刷ミスじゃないかと聞いてみたのだけれど、私の持っていた薄手のシャツは間違いなく999円ということだった。
こんな世界もあるのね……
まるで異国の地を旅するように新鮮な気持ちで買い物を楽しみ、会計をするときにもまた驚いた。
小物も合わせて16点もの品を買ったはずなのに、支払いが一万円以下だったのだ。
昴さんのいる二階へ上がる途中、思わず笑みがこぼれて、生まれて初めてこんな感情を抱いた。
――安いって、嬉しいかも。
「……あれ? もう自分で払っちゃったのか。俺のと合わせて買おうとしたのに」
「いえ、だってすごく安くて! あと100着くらい買いたくなっちゃいました!」
興奮気味に話す私をふっと鼻で笑ってから、昴さんは近くにあった鏡の方へ移動し、持っていたTシャツを当ててみていた。
「どう? これ」
海のように深いブルーに、シンプルな英字プリントのTシャツ。
彼の明るい髪の色ともよく合っているし、素敵だと思う。
「お似合いです、とても」
「じゃーそっちの棚からXSも持ってきて?」
……XS? 畳まれたシャツの山からそれを探して広げてみたけれど、昴さんにはちょっと小さいような……
「それ、お揃いの部屋着にしよ」