バターリッチ・フィアンセ


その日の夕食は、昴さんの話で持ちきりだった。

いつも長すぎると思う、イタリアから輸入した高級ダイニングテーブルの端に集まった家族たちは、あの履歴書を回し読みしながら好き勝手な意見を口にする。


「顔はいいけど、パン屋なんて地味だわ。一日がその手伝いで終わっていくなんて、老け込むのも早くなりそう」


キラリと光る宝石のたくさんついた指で、履歴書をつついたのは、一番上の姉、琴絵(ことえ)お姉様。

私より七つ年上の彼女は、外科医の義兄と結婚して二年になるけれど、いつも自由な時間を過ごしていて、確かに若々しい。

でも、結婚している意味があるのかと、私は時々聞きたくなる。

今日みたいにフラッと実家に帰ってくることの多いお姉様だけど、義兄との時間をもっと大切にしなくていいの? ……って。


「パン屋でも稼いでればいいけどさ。この“ノワ”って、そこら辺にある“町のパン屋”程度の小さな店よ? 織絵も物好きね」


琴絵お姉様ほど光り物は身に付けてないにしろ、毎回見たことのない高級ブランドの服に身を包む、次女の珠絵(たまえ)お姉様が言う。

私より三つ年上の彼女は、恋人がくるくる変わって私はなかなか名前を覚えることができない。

今付き合っているのは、確か……ああ、やっぱり思い出せない。

職業は弁護士だった気がする。珠絵お姉様は、“先生”と呼ばれる職業の人が好きなのだ。

ただし、学校の先生は彼女曰く“説教臭い”から興味がないらしいけれど。


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