バターリッチ・フィアンセ
……いじめ、甲斐?
不吉な言葉に、私の耳がぴくりと反応した。
「昴さん、今なんて言いました?」
おそるおそる聞き返すと、昴さんは明らかにとぼけた様子で私から目を逸らし、膝を叩いて立ち上がるとわざとらしくこう言った。
「――さ! さっさと店片付けて部屋でいちゃいちゃしよっか」
「質問に答えてもらっていませんけど!」
それにいちゃいちゃって……あなたが言うといかがわしすぎます!
「あれ? そんな態度でいーのかな織絵ちゃん。ピザパン出せなかったの誰のせいだっけ?」
「そ、それは……」
私が口ごもっていると、いつの間に側に来ていた昴さんの手が、私の顎を掴んで引き上げた。
「……昼間、常連さんに言って聞かせたこと、本気だよ」
ついさっきまでふざけていたのに、真剣な声色でそう言われ、薄茶色の瞳で真っ直ぐ見つめられてしまうと、私の心臓は過剰に反応した。
昼間言ってたことというのは……“大恋愛は、これからするつもり”というあれだろうか。
あのときは全く信用できなかったけれど、この二人きりの状況で、息のかかりそうな至近距離。
さらにはそっと囁くように言われたら、信じてしまいそうになる。
「昨日は眠気に負けたけど、今日は俺元気だから。織絵をちゃんと満足させてあげる」
ドキン、と大きく波打った自分の心臓の音があまりに大きく聞こえて、顔にどんどん熱が集中していくのがわかった。
昴さんって、やっぱりパン職人よりもホストが天職な気がする……!
どうしよう、私。今夜この人に抱かれてしまうの――――?