バターリッチ・フィアンセ
「――織絵ってさ、魚介とか食える?」
部屋に戻って、ラフな格好に着替えた昴さんがキッチンに立つ。
昨日着ていたお揃いのTシャツはただいま洗濯中だから、今日はお互い別々の服。
「はは、はい! 特に苦手なものはありません!」
「……なにどもってんの?」
「私のことはお気になさらず! お料理に集中してください!」
リビングの床で体育座りをする私は、帰ってきてからずっとこんな風に挙動不審だ。
それはもちろん、先程の昴さんの発言を意識しすぎているから。
もしも、そういう状況になるとしたら一体いつ?
ご飯を食べて、お風呂に入ってからが一番危険?
そして、この狭い家のどこで? あのロフトでそういう行為に及べるとは思えないんだけど……
そんな思考ばかりが頭の中を駆け巡っていて、せっかく昴さんが何か作ってくれているというのに、食欲すら湧かない。
良く考えたらお昼だって抜いているのに、緊張と変な妄想で胸がいっぱいになっているのだ。
今までに、そういう話をする相手もいなかったし……
いわゆる“お嬢様学校”というのに通っていた頃、そういう類の話も全くあっけらかんと話す女子グループもあったけれど、私はどちらかというと苦手だった。
家に帰れば姉たちが、さらに強烈で生々しい話を平気でするものだから、私は余計に性的な話題を好まなくなっていたのだ。
だから、話し相手は自然と特定されて……学校では気の合う女友達、そして家では――。