バターリッチ・フィアンセ
『……お嬢様は。彼ならばいいと、お思いなんですか?』
やがて真澄くんが発したそんな質問に、私は答えを詰まらせた。
絶対嫌だ、と思っていないのは確かだけれど。本気で迫られてしまったら、断れない、くらいの気持ち。
だけど、その程度で流されそうになっているとは、真澄くんには言いづらい。
『……嫌ではない、といったところでしょうか』
けれど、付き合いの長い真澄くんにはお見通しだったみたい。
私の気持ちをそのまま言い当てた彼に、私は正直に「うん」と返事をした。
「だけど、学生の時から、そんな話で盛り上がる女友達はいなかったし……お姉さまたちにも相談できないから、あなたに電話してしまったの。あの二人のアドバイスは、なんとなく予想ができるし……」
もしも姉たちに相談したら、“ちゃんと避妊しなさい”と言われるか、あるいは必要のないテクニックを伝授されたりするんだろう。
もちろん避妊は大事だと私も思うけれど、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて……
『織絵お嬢様』
「……なあに?」
聞き返すと、声のトーンを少し落とした真澄くんが言う。
『そのことに関してだけは、僕からは何も言えません』
え――? どうして……
「私、他に相談できる人なんて……」
『申し訳ありません。お役に立ちたいのは山々ですが……どうしても、私情を挟んでしまいそうになるので』
「私情……?」
どういう意味かわからずに首を傾げる私の背後で、ガラッと窓が開かれる音がした。
振り返ると昴さんが口の動きだけで「まだ?」と言っている。
彼の向こう側に見えるテーブルには食事の用意が整っていて、これ以上電話を続けるのはせっかく腕を振るってくれた昴さんに申し訳ない。