バターリッチ・フィアンセ
●甘いお仕置き
夢の狭間に、アラームのような音が鳴り響いて私は寝返りを打った。
うるさいな……。
せっかく昨夜彼が作ってくれた“帆立と海老のグラタン”にもう一度ありつけるところだったのに……
「織絵」
「ん……」
名前を呼ばれてるって、理解はできるけれど……くっついているまぶたは、全く開こうとしない。
何度か身体を揺すられたような気もするけど、その振動は優しくてまるでゆりかごのよう。
気持ちいい……
浅かった眠りはたちまち深くなり、私の意識はいつの間にか途切れてしまった。
「――遅い」
二日目の鬼は、一日目よりも覚醒が早かった。
前日と同じく、用意されていた朝ごはんをゆっくり食べて、着替えて、お化粧をして、今日はメモとペンも忘れずに持って。
午前九時ごろに、昨日の食事の時に教えられた“裏口”から、店内を通らずに厨房へ出勤すると、すでに部屋いっぱいに漂う柔らかなパンの香りにそぐわない、怖い顔をした昴さんが私を待っていた。
「あ、あの……私、本当はここへ何時に来ればよかったんでしょう?」
怯えながら尋ねた私に、鬼はこともなげに言い放つ。
「三時半に起きて、四時前には着替えてここに」