バターリッチ・フィアンセ
「昴さんは……?」
「俺はもうちょいやることある。昨日ブログさぼっちゃったし」
「……大変、ですね」
それでまた夜中に起きて、仕事をして……過酷すぎる労働条件なのに、昴さんは全然疲れているように見えない。
「ま、好きでやってることだから」
そう言って微笑んだ彼の笑顔は、今までで一番自然なものな気がした。
きっと、今のは本当の気持ちなんだろう。美味しいパンを作って、お客さんに提供する仕事が好き。
それが、昴さんの本音……
「私……もっと、あなたの役に立ちたいです」
「なんだよ、急に」
茶化すように笑って、ロフトから降りようとする昴さん。
冗談じゃないのにな……ああでも、それをうまく説明する元気がもう、残ってないみたい。
「それで、昴さんが……いつか心から私を必要とする日が、来たら、いいって――――」
どこまで言えたのかわからない。
ふにゃふにゃとわかりにくい口調だっただろうし、昴さんが最後まで聞いていたのかも知らない。
でも、伝えたかった。
まだおぼろげにしか形を持たない気持ちではあるけれど、あなたの存在が特別になりつつあるのだと。
そう、頭では考えていたものの……色々考えながら眠ってしまったせいなのか、お仕置きという名のキスの雨に体力を奪われてしまったせいなのか。
時間通りに鳴ったらしいアラームを夢の片隅で聞いたものの、心地良いその世界から私が抜け出すことはなかった。