バターリッチ・フィアンセ
○くるみパンの謎
目を覚ました頃には、すでに外は明るくなっていた。
朦朧とする意識のままスマホで時間を見ると、もやがかかったような思考は一気にクリアになった。
「し、七時……!?」
あんなに“寝坊するな”と念を押されていたのに……!
朝ごはんもメイクも諦め、着替えだけを済ませた私は厨房に駆け込む。
「――ごめんなさい! 雑用でも何でもやりますから、どうか許して下さ……」
言いかけてから、厨房の妙な静けさに気付く。
あれ? 昴さんがいない……
オーブンは稼働しているから、お店の方に居るのかもしれないと予想して、店内へ続く扉をそっと押して向こう側を覗く。
あ……いた。
ついさっき焼きあがったのであろう商品を、ひとつひとつ丁寧にカゴに並べる昴さんの横顔を、私は扉の隙間から見つめた。
その手元には、つやつやでふっくらとした、花のような形に成形されたパン。
わぁ、美味しそう……もしかして、数あるパンの種類の中でも私が一番好きな、あれかな。
朝ごはんを抜いているからか、それを見たら急激に空腹を覚えた私。
こっそりと覗き見していたはずが、盛大に鳴いた腹の虫のせいで、昴さんの視線がばっちりこちらに向いてしまった。
「あ……あの、おはよう、ございます」
気まずい……
寝坊した上に、お腹を空かせてパンをじっと見ているだなんて、大人の女性として品がなさすぎるでしょう、私。