バターリッチ・フィアンセ
それでも痛む関節や、たれてくる汗に耐え、なんとか台車に乗せて厨房まで運んだけれど……
「――――遅い! さっさとカスタードの準備にかからないと今日はクリームパンもアップルパイも店頭に出せなくなるだろ!」
そこでもまた、指示というよりは言いがかりみたいな罵声が飛んできて、私は唇を噛んだ。
もちろん、カスタードがなかったら困るし、もともと寝坊した私のせいで作業が滞っているのかもしれない。
だけど……あの粉袋をすぐに持ってこれる女性がいるなら会ってみたい。
口に出しては言わないけれど、そんなささやかな抵抗を、胸の内だけで呟く。
昴さんはというと、三角形の生地をくるくるとクロワッサンの形にしている最中で、その横顔は、私を見ているときよりよほど真摯なものに見える。
私は、パン以下の存在……?
そんなネガティブな思いでカスタードを炊いていると、やっぱり作業に粗が出てしまったみたいで……
「馬鹿、ダマになってる。貸せ、俺がやる」
案の定、昴さんに叱られて、私は与えられた仕事も奪われてしまった。
「ごめんなさい、昴さん……」
「謝るくらいならしっかり見て覚えろ。明日は手伝わないからな」
ついに泣きたくなってきた私は、彼の手際のよさを見ながら何かを学ぶなんて心境にはなれなかった。
私たち、本当に婚約者よね……?
そんな疑問ばかりに、頭の中が支配されて。