バターリッチ・フィアンセ

ありあわせの材料で昴さんが作ってくれたのは、フランスパンのサンドイッチと野菜のたっぷり入ったキッシュ。

カフェ並みに素敵なランチの登場に、お腹を空かせていた私の気分はさらに浮上した。


「お店にイートインスペースがないのが残念ですね。昴さんのお料理出したら絶対に売れるのに」


サンドイッチにぱくつきながら、私は言った。


「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね、こっちはただの趣味。
やっぱパン作りの方には手を抜きたくないから、俺にはこれくらいの店でちょうどいい」


厨房にひとつしかない折り畳みの椅子は私に譲ってくれたため、立ったままで食事をする昴さんがそう言って稼働中のオーブンを覗く。


そっか……。お料理してる間にパンを焼く人がいなくなってしまうものね。

私に手伝えることだって限界があるし、誰かを雇うのだって色々大変だろうし……あ、このキッシュ、美味しい。

考えるのと食べるのと、どちらかにできない欲張りな私が口をもごもごさせていると、さっさと自分の食事は終えた昴さんがこんなことを言った。


「そういえば、来週夏休みってことで三日間だけ店閉めるけど、織絵なんかしたいことある?」

「夏休み……ですか」


それにしても、お休みがたった三日間なんて、やっぱりこの仕事って大変なのね。

それだけ、昴さんの作るパンを待っているお客さんが居てくれるってことなんだろうけど……


「つーかお嬢様って、いつも夏休みをどんな風に過ごすわけ? やっぱどっかに別荘とかあんの?」

「我が家の場合は……蓼科に別荘があります。そこでテニスとかゴルフとか……」

「おー、いいね。織絵のスコート姿とか」

「べ、別によくありません!」


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