バターリッチ・フィアンセ
本当に、朝からお昼までのあの昴さんはなんだったの……?
私をからかって笑う姿は、いつもの彼と全く変わらない。
不思議に思いながら最後のパンを口に入れた私に、少し声のトーンを落とした昴さんが告げた。
「明日も定休日だけど……ちょっと一人で行きたい場所があるんだ。夕方には戻るつもりだけど、織絵はどうする?」
「え。明日、昴さんいないんですか……?」
入り口のガラス戸に貼ってあるから知っていた。このお店の定休日が毎週木曜日だってことは。
だから、木曜である明日は二人でゆっくりできるのかな、と期待していたのに……
「誰かにお会いする予定でもあるんですか……?」
午前中の落ち込んでいたときに、脳裏をかすめた可能性。それが現実のものだったらどうしようと不安になって、私は聞いた。
お願いだから、否定して。そう、祈りながら彼を見つめていたのに……
「まあ、そんなとこ」
……うそ。
「女性……ですか?」
「うん。……大切な人」
いやです、昴さん。そんなに優しい顔をして、“大切な人”だなんて言わないで。
「もしかして、あのくるみパンはその人のために……?」
「……いつもは抜けてるくせに勘いいんだな、織絵。そう、あれを届けに行くんだ。だから明日は織絵もどこか外出してて?」
「…………わ、かりました」
昴さんお手製のランチで回復していたはずの心の活力が、みるみるうちに衰えていくのがわかった。
でも、私に正直に告げるってことは、そんな後ろめたい相手でもないのかな……
そうよね、きっと。そうに決まってる。
自分に言い聞かせるように心の中で繰り返しながらも、この不安な気持ちのままで明日、一人で過ごす勇気はない。
そう考えると、私の明日の予定は、おのずと決まってくるのだった。