バターリッチ・フィアンセ
「もしもし。お電話代わりました」
私は真澄くんの側で、不安げに彼の様子を見守る。
そして案の定、電話に出てからほんの少しの間に、彼の顔は険しくなった。
「……したと言ったらどうするんですか?」
真澄くんの強く握られた拳から、昴さんの部屋の前で二人が対峙したときのように、彼が熱くなっているのがわかる。
二人は一体どんな会話を……?
いくら聞き耳を立てたところで、昴さんの声は聞こえてこない。
「あなたは、一体どうして織絵お嬢様を不安にさせることばかりするんですか」
私が聞きたいけど聞けないことを、真澄くんは真正面からぶつけてくれた。
けれど、あの昴さんが素直に答えるなんてことはなかったみたいで……
「城戸さん!」
怒鳴るように言った真澄くんは、しばらくしてスマホを耳から離した。
そして申し訳なさそうに、私の手の中にそれを返す。
「申し訳ありません……お嬢様に代われと言うのに僕がそうしなかったから、電話を切られてしまいました」
「ううん……いいの、ありがとう。彼に色々聞こうとしてくれて」
「結局、何も答えてはもらえませんでしたが……」
無念さを滲ませて言う真澄くんの手を、私はそっと握った。
本来、私と昴さんで解決しなきゃいけない問題なのに……親切なあなたを巻き込んでしまっているだけなのだから、気にしないで。そういう意味を込めて。
「私、まだ頑張るわ。今日、こうして真澄くんに元気を貰えたし、来週にはお店が夏休みに入るそうなの。その時にまたゆっくり、昴さんと話をしてみる」
「お嬢様……」
真澄くんは、切なそうに微笑した。私の気持ちを汲んだ彼は、さっき言いかけていたことを、飲みこむことにしたみたい……
ごめんね、真澄くん。
そのことに、少しほっとしている自分が居る――。