バターリッチ・フィアンセ
●餌はハチミツ
ししおどしの音が耳に心地良い、立派な日本庭園。
夏の眩しい緑を楽しみながら、私は都内の料亭で城戸さんと初めて対面した。
「初めまして、城戸昴です」
紺のスーツに身を包んだ彼が、テーブルの向こうで丁寧に頭を下げた。
ハニーベージュの明るい髪は、トップはふんわりと、えりあしを跳ねさせていてとってもお洒落。
前髪から覗くのはきりりと整った眉。その下にパッチリとした二重まぶたの大きな瞳。高めの鼻にきゅっと引き締まった唇……
写真でも素敵な人だと思っていたけれど、本人を目の前にするとその整った顔立ちに思わず目を奪われてしまった。
けれど、ここでそんなに無遠慮な視線を送るのは淑女としてどうなの、と思った私は、品の良い笑みを浮かべて小さくお辞儀をする。
「三条織絵と申します」
三度の飯よりパンが好き、だからあなたと会うことを楽しみにしていました。そう、心の中で付け加えながら。
それから父と、城戸さん側の仲介人である製粉会社の社長の男性を交えて、私たちはお互いのことを話した。
それは少し堅苦しいもので、得られたのは父に渡されていたあの履歴書を見ればわかる情報ばかりだったので、早く城戸さんと二人きりにしてくれないかな、と思いつつ、お料理と会話を楽しんでいる振りをしていた。
「――それじゃ、あとは本人同士で話をさせましょうか」
昼間からお酒を嗜んだ父がほんのり頬を赤く染めながらそう言うと、仲介人の方も頷き、二人は座布団から立ち上がると襖を開けて部屋を出て行った。
これでやっと、ゆっくり話ができるわ……
少しだけ姿勢を崩した私が、箸を置いて口を開きかけたときだった。