バターリッチ・フィアンセ
昴さんから再び連絡があったのは、当初の予定通り夕方になってからのことだった。
「――それじゃ、真澄くん。お父様のこと、よろしくね。でも、無理はしないで」
「……お嬢様のためなら、多少の無理はしてしまうかもしれません。
でも、それは僕がしたいからそうするんです。お嬢様は気になさらないで下さい」
「もう、相変わらず優しいんだから……」
玄関まで見送りにきてくれた真澄くんと、そんなやりとりをしてから家を出た。
行きは車で来た門までの道を、両脇に広がる庭を眺めながら一人で歩く。
そろそろ門の外に、昴さんが迎えに来てくれているはず。そう思うと、自然に歩く足が早まった。
重たい金属の門を押して左右を確認すると……我が家の高い塀に背中をもたれさせ、西日に目を細める昴さんが居た。
「あ、あの……お待たせしました」
「おー、お帰り」
……あ、あれ?
ほんの少しの間会わなかっただけなのに、この嬉しさは何だろう。
顔を見ただけで、こんなに胸が弾むなんて。
「うちの場所……わかりにくくなかったですか?」
「こんなでかい家この辺りにはここしかないから、間違うわけないだろ」
軽く笑った彼が、私の頭を小突く。ただそれだけでトクン、と心臓が鳴り、触れられた部分がじわじわ熱くなる。
しばらく二人で歩いていると、私は言葉にせずにはいられなくなった。
「あの、昴さん」
「ん?」
「すごく……逢いたかったです」