バターリッチ・フィアンセ
「織絵、なにぼーっとしてんの?」
怪訝そうに私を見つめる昴さんに、私は満面の笑みを向けて言う。
「行きたいです! ペンション!」
「……そりゃよかった」
私があまりに食いつくものだから、昴さんはちょっと引き気味に苦笑していたけれど、すぐにお友達に予約確定のメールをしてくれた。
私をそこへ連れて行ってくれるって言うことは、当然婚約者として私を紹介してくれる意思もあるってことだし、しかも昴さんが予約してくれたのは二泊。
いつもと違う環境で、翌日の仕事も気にせず過ごせる夜……少しロマンチックな展開を期待してしまう私は、浅はかかしら。
真澄くんに頼んだことは、もしかしたら知る必要がなくなるかもしれない。
できれば、そうであってほしい。
私は、背負った夕陽が二人並んだ影を伸ばしていくのを見ながら、そんなことを考えていた。