バターリッチ・フィアンセ
○堕ちた天使
-side 城戸昴-
のどかな霊園内にある大きな蜜柑の木。
その青々とした葉の影は、まるで母のために日陰をつくってくれているようだった。
「よかったな。涼しそーじゃん」
俺はひとつの御影石の前でしゃがみ込むと、持っていた袋を供え、両手を合わせた。
織絵と暮らし始めてから初めての休みは、一人でここへ報告に来ると決めていた。
――あのお嬢様を自分の側に置くっていう目的は、達成された。
あとは、どう料理するか、だけど……
「……なかなか、手強い相手なんだよな」
合掌を終えると、ぽつりとそうこぼした俺。
供えた袋を手に取りガサガサと開けて、出てきたくるみパンを半分にちぎる。
「彼女も、“これ”が一番好きだなんて言うんだ。お嬢様のくせに、こんな素朴なパンを」
袋を皿代わりに、もう一度パンを供えて、残りの半分は自分で頬張った。
昨日、俺がキレたときの織絵の怯えた表情……
あれくらいで胸を痛めてる場合じゃないのに、お嬢様らしからぬ根性と健気さを持つ彼女にはどうしても鬼になりきれず、結局その後フォローみたいに食事を作ってやってしまった。
しかも、すげー美味そうに食うんだから、本当にやりにくい。
「でも……心配しなくていい。これからうまくやる。だから……空(うえ)から見ててくれよな。
俺が復讐を遂げるのを――――」