バターリッチ・フィアンセ
「……で? サイテー男の昴がうちのペンションに女の子連れてくるって、それはやっぱり遊びなの?」
ふいに美和に聞かれて、俺は眺めていたメニューから視線を上げて短く答えた。
「……いや、違う」
「ってことは、ついにお前にも本気になれる相手が現れたか!
いやー、安心したよ俺は。お袋さんのことがあってから、余計サイテー男に輪をかけたようにとっかえひっかえだったろ? お前」
腕組みをしながら大げさに喜ぶ達郎に、俺は苦笑した。
だって、ある意味一番最低なことをこれから一人の女にしようとしているのだ。
……しかも、一生をかけて。
「……相手は三条織絵だよ」
ぼそりと呟くと、向かいに座る二人の表情が、同じタイミングで固まった。
……さすが、仲のいいカップル。
「あ、店員さん、俺、ミックスグリル。ライスで」
「ちょ! ちょっと待て昴! お前は本当にあれを実行する気で……! あ、俺、ステーキ丼! のスープセット!」
「私、きのこの和風パスタで! ドリンクバー? ええと三つ! 昴、詳しく話を聞かせなさい!」
俺の事情をすべて知っている二人は、注文しながらも噛みつくような勢いで俺を問い詰めにかかる。
二人には世話になってるし、織絵をペンションにも連れて行くことだし……もちろんこういう状況になったらすべてを話すつもりでいた。
二人は絶対に反対するだろうけど、俺はこの計画を止める気はないと言う意思を、たっぷりと含めて。