バターリッチ・フィアンセ


「……悪いけど」


そう前置きをすると、昴さんはこちらを振り返って言う。



「そのことだけは、一生織絵に話す気はない」

「そん、な……」



――どうしてなの? だって、お友達の美和さんは、そのことについて何か知っている風だったのに。

私の存在は、それ以下ということ?

あまりの悲しさに、目の前がぼやけて、喉の奥が熱くなる。



「……泣くなよ」



慰めるような声ではなく、面倒臭そうに言われて、ますます涙がこみ上げてしまう私。

昴さんはひとつため息をつくとゆっくりこちらまで歩いてきて、大きな手で私の濡れた目元を撫でた。


「不安?」


そう聞かれて、私は素直にこくりと頷く。

ようやく婚約者らしくなれてきたかと思えてきた最近だったのに、また昴さんが遠くなってしまった気がして……



「……じゃあ、タルトは諦めて? 余計なこと、考えられないようにしてやるから」



――あ。

昴さんが目を細めたのを見て、私の身体の奥が疼く。

私は、その目に弱いんだ。

一瞬で甘い予感が身体中に広がって、彼から逃れられなくなってしまう。



「……よかった、ダブルベッドで」



傍らのベッドをちらりと見てそう言った昴さん。

次の瞬間にはもう、私の身体はそこに沈められていた。


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