バターリッチ・フィアンセ
そうじゃないの……
私が怖いのは、そうじゃなくて………
「昴、さん……」
「ん?」
「私の……名前を、呼んで……?」
……本当は、違うことを願っていた。
“私を好きだと言って”――そう言いたいけど、言えなかった。
たぶん、彼にその願いは聞き入れられないだろうと……なんとなく、わかっていたから。
それを裏付けるように、昴さんは一瞬眉根を寄せると、私から目を逸らした。
この人は、やっぱり何か隠してる。
でも、それを私に教えてくれる気はない……
どうしたら、本当の意味であなたに触れられるんだろう。
どうしたら、私は本当のフィアンセに――――
「……織絵」
しばらくすると昴さんは、ささやくように私の名を呼んだ。
静かな部屋でなければ聞き逃してしまいそうな、頼りない声だった。
「昴さん……」
それでも私の耳にはちゃんと届いたから、応えるように私も彼の名を呼び、視線を絡ませる。
そこにちゃんと私の姿を映しているのに、どこか遠くをさまよっているような薄茶色の瞳が切なくて、私は絡み合っていた手を解くと、抱きつくように彼の首に自分から手を回した。