バターリッチ・フィアンセ
○二度目の初体験


静かな住宅地に鳴り響くけたたましいサイレン。

アスファルトをガラガラと移動するストレッチャー。


これ――また、あの夢だ……


何度もお母様を失うのはいやなのに、どうして最近頻繁に、この時のことを夢に見るのかしら……


そこにいる私は、姉たちにすがって泣く中学生の織絵ではなく、神様のように、少し離れた上空から辺りを見渡しているようだった。


救急車は病院に着いて、同乗していた父と、自家用車で後に続いていた私たち家族が次々に車から降りてくる。


――もう、早く醒めてよ……


この後どうなるかは知っているから、見たくない。

お願いだから起きて、織絵……


そうやって、なんとか夢の世界から脱しようとしているときだった。


私たち家族が病院内に入っていった直後に、もう一台救急車がそこにやってきた。


自分の記憶にないことまで夢に見るなんて……と不思議に思いつつ、成り行きを見守っていると、見えている映像が薄れてきた。



よかった、やっと目が覚める――。








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