バターリッチ・フィアンセ


ゆっくりと開いた目に最初に飛び込んできたのは、天井で回転するシーリングファン。


……素敵。

この部屋にあんなインテリアがあったなんて、昴さんとの行為の最中は気が付かなかったけれど……



「昴、さん……?」



声に出して、左右に寝返りを打ってみたけれど、そこには誰もいなかった。


がばっと身体を起こすと掛けられていた薄い布団が素肌を滑り落ち、自分が何も身に着けていなかったから、あれは夢ではなかったんだとわかって少しほっとした。

だけど、彼はどこへ……?


元通りに服を着替えて、テーブルの上に置きっぱなしになっていた鍵を持つと部屋を出た。

木製の床を歩く私の足取りは、初体験の余韻で少しおぼつかない。


階段に差し掛かったところで、下から明るい声がした。


「――あ、織絵さん、よかったー。今呼びに行こうとしてたんです」

「私を……?」


階下の美和さんを覗き込みながら、私は首を傾げる。


「ええ、さっき話していたタルトもあるし、それから昴がいいもの作ってくれたのでお茶にしましょう?」

「……昴さん、どこにいるんですか?」

「キッチンです。“織絵は疲れて休んでるから暇だー”って、せっかくのお休みなのに、またパン捏ねてたんです。
パン職人のワーカーホリックなんて珍しいですよねー」


……そうなんだ、よかった。

美和さんの口ぶりだと特に昴さんの様子に変わったところはなさそうで、私は胸を撫で下ろす。


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