バターリッチ・フィアンセ
一階に降りて美和さんと並んで歩く間、彼女に昔の昴さんのことを少しだけ聞くことができた。
昴さんは、学生時代も他店での修業時代も勉強熱心で、つらい肉体労働も泣き言ひとつ言わずに頑張っていたこと。
アルバイトを掛け持ちし、得たお金は将来お店を開くためにせっせと貯金していたこと。
そして。
女性関係がだらしなかったこと――――
「たぶん、同じ製パンコースだった女子の半分は昴に泣かされてますよ。あのルックスだし、口もうまいし、それで成績もいいんですからね」
「……なんとなく、わかります」
私が否定せずそう呟くと、美和さんは私を珍獣を見るような目つきで見つめてきた。
「……それをわかってて、どうして昴がいいんですか?」
「え……?」
「あ、なんか変な言い方してすみません。でも、織絵さんから見てもアイツは軽い男ってことですよね?
そんな相手と、自分の一生を左右する大事な結婚の約束をするって不安はないのかなって……同じ女性としてちょっと疑問に思って」
……美和さんの言うことは、もっともだ。
けれど、昴さんを知れば知るほど、その“軽い彼”は偽りの姿に見えてくる。
だからって、昴さんと結婚したらたくさんの幸せが待っているだなんて思えるまでには至っていないけど……
私はまだ、彼とのことを放棄したくない。