バターリッチ・フィアンセ
「昴さんは……私に何か隠していると思うんです」
美和さんに連れて来られた食堂のようなスペースで、大きなガラス窓の向こうに昴さんの横顔をみつけて、私は足を止めた。
そこはいくつかテーブル席が設けられたテラスになっていて、彼は立ったまま風に揺れる木々を眺め、瞳を細めていた。
「それがなんなのか、美和さんは知っていますか……?」
きっと、知っていても教えてくれないだろうとわかっていたけれど、私は美和さんを真っ直ぐに見つめて、そう尋ねてみた。
「織絵さん……私……」
彼女はすごく迷ったようだったけれど、その迷いを断ち切るように一度深く息を吐き出すと、申し訳なさそうにこう言った。
「昴は大事な友達だから、言えません。でも……今、織絵さんと直接話してみて、こう思ったんです。
――織絵さんに、昴を変えて欲しいって」
私が、昴さんを、変える……?
「美和さん、それはどういう――――」
質問の途中で、タイムリミットが来てしまった。
私の姿に気付いたらしい昴さんが窓ガラスを開き、こちらに微笑みかけて来たのだ。
「やっと来た。タルトができたてじゃなくなっちゃった代わり、せっかく作ったんだから早く座って」
テラスの椅子を引きながら無邪気にそう言われたら、私も美和さんも彼に従うほかなくて。
「今、お茶をお持ちしますね」
「……ありがとうございます。わぁ、なんですかこのパン、美味しそう」
そう言って、私は消化不良の思いを一旦心の隅に追いやる。
そして森の緑のにおいと焼き立てのパンの香りが重なりあった空気を胸いっぱいに吸い込み、昴さんに笑いかけた。